詳細情報:棟方志功記念館 第Ⅳ期展示 「耽美文学の世界-吉井勇、谷崎潤一郎作品を中心に」
吉井勇と棟方との出会いは、昭和20年代のことでした。疎開先の富山県で吉井の歌に触れ感嘆した棟方は、戦後、吉井の歌集から31首を選んで連作板画《流離抄》(昭和28年)を制作。文字を様々に彫り込み装飾性にあふれたこの作品は、棟方自身も歌を口ずさみながら楽しんで制作できた作品であると語っています。
また、谷崎潤一郎とは昭和22年頃、京都の料亭「十二段家」の主人・西垣光温を介して知り合い、疎開中の住居を「愛染苑」と命名してもらうなどの交友がありました。谷崎の歌をもとに制作した《谷崎歌々板画柵》(昭和31年)は三角刀を駆使した繊細な装飾表現を確立するなど、棟方の詩歌による連作板画のなかでも集大成をなすものとなりました。また、谷崎の代表作の一つである『鍵』の挿絵として制作された《鍵板画柵》(昭和31年)は、棟方が初めて本格的に取り組んだ小説挿絵であり、美人大首絵など新たな作風を生み出す転機ともなりました。
耽美派を代表する二人の作家の流麗で妖艶な作品世界を、棟方は艶めかしさを表現しつつも、明朗で闊達な生命力あふれる板画に仕上げました。今回の展示では、上記作品を装幀本とともに展示するほか、昨年度新たに寄贈された小島政次郎の小説「聖体拝受-小説・人及び芸術家としての谷崎潤一郎」の挿絵原画を初公開いたします。棟方の描いた耽美な文学の世界をご覧ください。